結願編その1

6月9日

朝、4時40分に、目覚ましのセット時刻より早く目を覚ます。

流しのゴミを片付ける。

数日間の留守の間にウジ虫が湧くといけないからだ。

冷蔵庫からクリームパン1個といちごを出してきて食べる。

これで冷蔵庫の中の、数日間で腐りそうなものはなくなった。

旅も慣れてくると、旅立つ前にすべきこともだんだんと

わかってくる。

コーヒーの最後の一口を飲み干し、食べ物を原因と

した場合の結果を出す。

新幹線でしてもよいが、なぜか落ち着かないので、

今出るのであればと排出行為にはげむ。

持ち物の検査をする。

下着、シャツ、ズボン、折り畳み傘、毎度お馴染みの

ガイドブック、週間競馬ブック、カメラ、大方の

スケジュールを書いたメモ帳、すべてOK。

そして最も大事な納経帳、線香、蝋燭、ライタ-

財布の確認も怠りない。

玄関に持ち物を置き、表に出る。

花の水やり、猫の餌やりとそつなくこなし、5時50分

、私は家出をした。

田園の中を歩く、この前より苗も背丈をのばし、

緑を濃くしている。

また少し、駅に着くまで猫の話をしていきましょうか。

子猫のとーちゃんも、随分と大きくなりまして、親猫と

変わらないくらい成長しました。

しかし、何か親猫と違うものがある。

じっくりと観察してみると、それは足の長さでした。

足が短いぶん、体高が低いのです。

もっとわかりやすい言葉で言えば、背が低いのです。

つまり、背が低い、高いという言葉は、本来は動物さん

の大きさを表すためのものであることを私は

発見してしまったのです。

人間にはあてはまらないものです。

人間の場合、身長が長いとか、身の丈が大きい、とする

のが正しい表現ではないかと思います。

以前から、背が高いってどういう意味だろうって

不思議に思っていましたが、とーちゃんに、教えられました。

ありがとう、とーちゃん。

 

6時8分駅到着、20分の電車に乗るつもりでいたが、

私の勘違いで実際は2分後に電車はやって来た。

15分で知立に着き、ホームに降りるとすぐに

名古屋行きの特急がやって来た。

車内は非常に混雑していて、座れるような状況

ではなかった。

恐らく次の急行にすれば座れるであろうが、この先に

なにがあるかわからない。

一つでも先に進んでおきたい、というのが私の偽らざる

心境だったので特急に乗り込んだ。

6時48分名古屋駅着、右ドアから降り階段を上がり、

左方にある西改札口を出て階段を上がる。

地上に出て、左に曲がり横断歩道を渡って国鉄いや失礼

JR名古屋駅構内へ入る。

入るや否や、右に曲がりしばらく行って新幹線乗り場の

矢印に従って左に進む。

途中にいつも立ち寄るJR切符売り場があり、今日も

切符を頼む。

松山行きの乗車券と多度津までの特急券を求める。

例によって往復切符を勧められる。

この時点で私は松山までの往復案と、予土線、土讃線、

徳島線、新神戸への高速バス、新幹線案が心の中を

二分していた。

そのため私は勧めを断った。

代わりに私は、多度津から詫間、詫間から八十場、

八十場から志度の乗車券を求めた。

現地でも買えないことはないが、何かあった時には

難を逃れるであろうと思ってそうした。

ヒントとなったのは前回の海部日和佐間の切符である。

あれも高知駅で海部名古屋間の乗車券を買っておけば

無駄なお金を使わなくて済んだのにと後悔したからだ。

7時06分発の、いつもの「のぞみ97号」に乗った。

本来は1本か2本遅いのぞみを予定していたのだが

早いに越したことはないと、飛び乗った。

のぞみはその巨体をゆっくりと動かし始めた。

四国へ通うのは昨秋からこれで5回目である。

通うという文字は別の読み方では「つう」と言う。

すなわち私は「四国のつう」になりつつあるのだ。

松山が第二の故郷ならば、徳島は第三、高知は第四、

そしてこれから行く高松が第五の故郷になるのも

、もはや時間の問題である。

 

これは先日行われた安田記念の勝ち馬投票券である。

この馬券を見れば、通ならわかるよね、しろひ猫が

ただ者でないことは。

配当は安いけど6から入って8でとる、渋いだろ。

かみがくれたーこのばくさいー

むだにーしてはーつみになるー

ウララ ウララ ウラウララー

安田はロゴタイプ狙い撃ち

 

空はどんよりと曇っている。

どんよりのどんと言う字は実は曇と書くのですよ。

突「誰が言いました」

私が言いました。

新神戸を過ぎた辺りから、雨はポツポツと降って来た。

並走するアスファルトがたちまち黒くなり、反射し始めた。

今日の四国地方の降水確率は70%、覚悟はできている

から何も心配はしていない。

熱中症で死ぬ人はいても、雨に降られて死ぬ人は聞いた

ことがない。

今年の夏は死人の山が出来るほど暑くなるそうだ。

そう思うから梅雨明け前のこの時期に敢えてやって

来たのだ。

8時43分岡山に着いた。

当然8時51分中村行きの「南風3号」に乗った。

乗って驚いた。

乗車率150%の超満員。

5月18日、同じ列車に乗った時ガラガラだったのに。

この差ってなんだ。

乗客の内訳は観光客が90%といった感じ。

ベテランの私が言うのだから間違いない。

偶然にもこの日この列車に観光客が集中したとは

考えにくい。

と言って、貸し切りでない鉄道を使った団体旅行っ

てのも聞いたことがない。

いずれにせよ、今回が高知行きでなかった

ことに安堵の胸をなでおろす。

9時41分多度津に着く。

普通に乗り換えて10時04分詫間に着く。

三豊市のコミュニティバス、ふれあいパークみの行きは

11時17分発である。

私は駅員にふれあいパークの行き方を尋ねた。

駅員はバスがありますよと言ったが、私は待ってられ

ないので歩きますと言った。

駅員に言われた道を、しっかり頭に叩き込み、10時07分

詫間駅前をスタートした。

駅前の道を左に行く、突き当たりの大通り(48号線)を左に

折れ、後は道なりに2km行くと左に行く道があり弥谷寺

の立札がある。

道はやがて上り坂となり1kmほどで左にふれあいパーク

右に弥谷寺の案内が見えて来る。

 

 

方向音痴の私でも間違えない比較的わかりやすい

お寺である。

右に曲がると山上バス(高ーい)の待合室があり、少し行くと

五百何段の階段が待っている。

今回初めての階段である、まだ元気がある、

難なく本堂まで駆け上がる。

時刻は11時10分であった。

11時17分のバスはまだ出ていない。

やはり歩いて来て正解であった。

帰りはバスである、バス停はふれあいパークにある。

パークに行くとすでにバスは待っていた。

時刻はまだ11時40分である。

これ詫間駅に行きますよね、私の質問に運転手さんは

はい、12時35分発の便ですがと言う。

12時04分の便はどこから出るんですか。

そんな便があるんですか、もしあるのでしたら

あちらです、と運転手さんは指差した。

もし私が下調べをしてなかったら12時35分発に

乗っていたことだろう。

ちなみにこのバスが11時17分発のバスであり、ここで

1時間待ちで詫間駅に戻るのだ。

後で知ったことだが。

12時18分詫間駅着。

坂出行き普通は12時48分である。

駅前のうどん屋がチラッと私の視野に入った。

30分も時間がある、しかも駅とは目と鼻の先の

距離のうどん屋だ。

私はこのお遍路で初めて飲食店に入った。

私は「天ぷらうどん」と「おにぎり」を頼んだ。

しかし待てど暮らせど、うどんは仲々やって来ない。

10分、15分、20分を少し過ぎたところで

やっと注文した品が目の前に届いた。

私は味わうどころか、一気に胃袋に流し込んで

店を出た。

時刻は12時46分辛うじてセーフと言ったところか。

駅員に切符を見せ、もうすぐ来ますよねと言うと、

駅員はきょとんとした顔で、さっき出ましたよと言う。

だって48分発でしょと言うと、それは去年までの

時刻表、今年から39分に早まりましたと言う。

次の便を訊くと13時41分だと言う。

やれやれ早まったことをしてくれた。

と、私はうどん屋に入ったことを後悔した。

そもそも私が飲食店に入らない理由は、このような

間違いが起きるからである。

おそらく今後私が何度お遍路をしても、これを教訓と

して飲食店に入ることはないであろう。

それにしても遅い、20分もかかるとは、四国の人は

こんなにのんびりしてるのだろうか。

ある人がスペインの食堂に8時に入って注文をしたそうな、

おばちゃんはちょっと待っててねと市場に食材を買いに

行って戻って来たのが昼だったそうな。

それに比べりゃまだましだけど。

結局11時17分のバスに乗ったと同じ時刻の

電車になってしまった。

歩いたことが無駄になってしまった。

とは、思わない、4kmの健康貯金が出来た

と思っておけばよい。

 

 

沢山の高校生が乗って来た。

詫間は高校生の乗る駅だ。

男の子は標準語を気取って喋るが、女の子は

四国弁(そんなものがあるのかどうか知らないが)

を大きな声で喋る。

なにか、のどかですごくいい感じ。

坂出14時14分着、普通に乗換え八十場14時29分着。

駅から出た通りを右に曲がり、突き当たりの道路を

さらに右に曲がると鳥居が見えて来る。

その隣に天皇寺はあった。

崇徳上皇が祀られているらしい。

わかりやすい寺であった。

急いで駅に帰る。

14時56分発に乗り15時19分高松着。

15時45分発で16時13分志度駅着。

これで何とか志度寺の納経には間に合いそうと

一安心。

駅を出て目の前の信号交差点を渡り右に曲がる、ずっと

そのまま歩き次の信号(志度)で左折して500mも行けば

右手に志度寺は待ち構えている。

今日の天気は、岡山まで来た辺りで雨はあがり、

弥谷寺から戻る頃にはすっかり上空も明るく

なり、詫間駅のホームに立つ頃には、晴れ間

も広がっていた。

私は志度寺の納経所で、今日は天気予報がいい方へ

外れましたね、と言うと納経所の人は、でも朝方は

凄い雨で、歩き遍路の人はここで1時間足止めを

くらっていましたよ、と言った。

へえーじゃ私は運が良かったのですねと言うと、きっと

日頃の行いがいいんですよと言われた。

私もそう思いますと、言いたいところをそんなことは

ございませんと心にもない謙虚な言葉を吐いた。

今日のお遍路はこれで終わり、残る作業は本日の

宿探しだけ。

のんびりと志度駅に戻る。

今日は一つミスをした。

私の不徳の致す所だ。

しかし私のミスが、いつも大勢に影響を与えるほどの

ものでないのは、お大師様が守ってくださって

いるお蔭だと思う。

17時01分発の便に乗り、17時20分栗林駅に到着。

また今宵もサンシャイン高松に泊まる予定である。

隣のスーパー「フーズセンター」で天ぷらとのりまき

とビールを買い、17時40分チェックイン。

テンプル(お寺)の語源を知っていますか。

突「知りません」

精進料理って、天ぷらがよくでますよね。

それで外国人がテンプルと言うようになったのです。

突「初耳です」

猫「初口です」

さあ、明日は一気に結願(けちがん)するぞ、と

心に固く誓う、しろひ猫であった。

見知らぬ街のホテルの8階でビールを飲みながら

市内を一望している、考えてみると不思議なことだと思う。